抗癌剤を8回、体の中に入れた。
一回目は43日間の入院中、残り7回は約6ヵ月間の外来治療で…。
血液内科患者の大半は白血病かリンパ腫だ。
病棟はもちろん外来診療の待合室の空気はいつも重苦しい…。
いままで興味も関心もなかった癌患者にこんなに会うとは…
わたし自身が癌患者になってしまったので当然だけど。
時間が経つにつれいろいろな患者がみえるようになる。
「癌です」
「そうですか」
「治療をしましょう」
「そうしましょう」
医学の発展により現在の癌は不治の病ではないが…
このような会話が出来る人はどのぐらいいるのだろうか。
そんなにいないと思う…。
どんな癌なのか、どのぐらい生きられるのか、治るのか…
などなどの質問をいっぺんに吐き出す。
そう、それが人間だ。
いや、命に対する本能だ。
ここまでの経験は告知された人間ならみな同じではないか…
問題は次の段階だ。
絶望感に落ち込んだ癌患者…
不安感、焦燥感、言葉で表現できない感情の中に…
癌という媒体が、すべてを否定的に変えてしまうのだ。
どんなに楽しいことがあっても顔に出せない。
顔から笑みは消え、ますます暗くなる。
半面、肯定的に癌と戦う患者…
生きている間には絶対あきらめない分類…
非常に明るく、笑いも、癌の専門家になっていく。
誰よりも癌を知ろうと勉強する。
医者と同等の立場で病気に関して意見を交換する。
2つのカテゴリーの癌患者の出発点は一緒だ。
癌という病。
癌患者には、この病をどのように治め、治して行くのか…
必ず乗り越えなけれはならない課題が…。
まず、家族の問題。
癌患者を介護する家族の苦労は計り知れない。
もちろん、患者自身も大変であるが…。
患者が家族に与える負担もあるが、その逆の場合もある。
特に、患者のためになると思い、数多くの励ましの言葉をかけるのは逆に当事者に多くの負担をかけることにもなる。
癌患者は一般人とは異なっている。
一般人のように摂取した栄養分を家族や社会のために使うことが出来ない。
その栄養価は癌という手強い悪魔との戦いで消耗してしまうのだ。
適切な励ましの言葉は力になるが、甚だしい関心を示すのは自分自身は別の世界に住んでいる人間であることを患者自身が認識してしまう言葉になってしまうのだ。
次は財政の問題である。
現代の病は医者が治すことではなくお金が治す。
特に西洋医学は病名が決まれば、次は金銭的問題が…
子供、学生、高齢者という非勤労者はもちろん、一般成人にしても闘病のため長い時間を休まなければ…。
国民健康保険で一部の恩恵は受けるが…
他に癌保険、健康保険、入院保険に加入していればちょっとぐらいは安心して治療を受けることができるが…
このような保険に加入している人は、金銭的に余裕が…、あるいは、自分の健康に関心がある少数の人であると思う。
最後は政治の問題である。
癌に対する認識や関心が足りない政治家…
権力、権利はもちろん上からの目線である病院政策…
製薬会社の利益のために、患者に必要な新薬は使用不可などなど…
医師会、薬剤師会などからの力強い応援をいまも受け続ける政治…。
いま日本の政治は癌にかかっている。
未来に対する提案も、過去に対する反省も、現在を直視する判断力もないのだ。
政治とは国民のためにあるものだが…。
国民との約束を守らぬ現政権。
癌患者だけではなく、すべての国民が苦しんでいるのは…
日本の政治が癌であるからだ。